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【お蔵探訪記】天吹酒造 ~その1.花酵母の魅力~

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2016年1月、佐賀県三養基郡、天吹酒造に行って参りました。

天吹酒造合資会社 佐賀県三養基郡みやき町東尾2894

良質な地下水をもたらす天吹山の麓にある蔵は、創業元禄年間と300年以上の歴史があり、その仕込み蔵や煙突など国の重要文化財に登録されています。

奥に見える仕込蔵・離れ座敷、蔵人飯場用煙突
奥に見える仕込蔵・離れ座敷、蔵人飯場用煙突

田んぼが広がる佐賀平野は、冬はとても寒く非常に日本酒造りに適しています。
訪れた日も、小雨の降るあいにくの天気でしたが、あたり一帯が深々と冷えており、ここで美味しい日本酒が出来上がっているのだな、と肌で感じることができました。

さて蔵を案内していただいたのは、十一代目蔵元木下社長。

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木下社長は、東京農業大学の醸造学科を卒業されており、日本酒造りはもちろん、天吹酒造の代名詞といえる「花酵母」については、右に出るものはいない!?と言うほどに、非常に熱心に取り組まれていらっしゃいます。

「花酵母」とは、お酒造りに必要な酵母を花から抽出したもの。日本酒の香り成分に一番影響を与えるのが酵母であり、花酵母は非常に香り高いお酒を醸すことが特徴です。辺りにはお米と麹の柔らかな香りを感じつつ、仕込み蔵に足を踏み入れるや、サッとフルーティな香り高い吟醸香が一面に広がります。

仕込蔵内

醪

興味津々で、仕込中の醪(もろみ)を見せて頂きました。驚いたことに、「花酵母」と言っても、その種類は多数。なでしこ、アベリア、シャクナゲなど花も多種ですが、なんと果物から抽出した酵母もあるとのこと。
リンゴやバナナなど様々な酵母によって仕込まれた醪は、サッと手で仰ぐだけで、まさにその果物が目の間にあるかのような香りを感じることができました。

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「そこがまさに花酵母の面白さ」と言うことで、木下社長に花酵母について詳しく教えて頂きました。

果物の酵母もたくさんありますが、どのような果物からでも酵母は取れるのですか?

「花酵母」とは、基本的には暖かい時期に咲く花や、果物から清酒酵母を分離したものです。
しかし果物にはワイン酵母が多く、清酒酵母がとりにくい。なので今までは花からとった清酒酵母をメインとしていましたが、果物由来の酵母にも挑戦しています。

なぜ花に酵母があるのですか?

酵母は基本的に土の中にいます。土が風の影響で蔵の中に舞い上げられ屋根や壁に付いたことが「蔵つき酵母」の始まりです。
「酵母がどこから来ているのか?」という研究が農業大学在学中、研究室で始まりました。土から酵母を採取するため、日本全国の土を取りに行きました。しかし、うまく酵母が取れなかった。
第2段階として、土に近くて酵母が集まりそうなところに注目しました。酵母は糖分に集まります。花には蜜があります。蜜の中を良く見てみると酵母がたくさんいました。その中から清酒酵母を分離して、お酒造りに使える酵母を取り出しました。

色々な花から色々な酵母が取れました。その花の育った土地や季節の違いが酵母の違いとなって表れます。
例えば「なでしこ」だけでも1~6号と6種類あります。4番目が一番良い香りがするため、多用されています。

ワインの場合はブドウ自体に酵母がありますが、日本酒の場合はお米に酵母がないため、自然界にある酵母を使う必要があります。
花酵母は、蔵つき酵母のルーツを探った先にあったものであり、天然の酵母です。しかし、バイオテクノロジーで新たに造り出したものではと、誤解されることも残念ながらあります。
一方、海外ではビオワインと言うオーガニックワインが定着しているため、自然派という点で、ビオに結びつき、花酵母を「自然派のお酒なんだ」と良いイメージを持っていただけます。
日本でも、もっと花酵母は天然酵母の自然のお酒というイメージが広がることを期待します。

熱心な花酵母の研究と日本酒造りへの探求が、「花酵母の蔵」として広く知れ渡る所以なんですね。

花酵母の香り高さ、由来の特徴がそのままに表れる面白さ、とても魅力的だと感じました。
ぜひ、一度皆さんにもその香りを感じて頂きたい!自信を持っておすすめしたい花酵母のお酒です。

続いては、天吹酒造の造りの工程に注目してみました。

【お蔵探訪記】天吹酒造 ~その2.造りへのこだわり~