深野酒造

【お蔵探訪記】深野酒造に行って参りました。

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2016年3月、熊本県人吉市、深野酒造へ行って参りました。

深野酒造株式会社 熊本県人吉市合ノ原町333

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■蛍舞う川 清らかな水より生まれる米焼酎

創業1823年。球磨焼酎で有名な人吉の地で、200年近く米焼酎を造り続けています。
人吉は、周囲を九州山地に囲まれた自然豊かな盆地であり、人吉城の城下町として栄えた町でもあります。
蔵が位置するのは、人吉の街中から車で数分、遠くに山々を見渡せ、田んぼに囲まれた静かな場所。

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良好な水質で有名な球磨川が貫流する人吉。蔵の裏手にもきれいに澄んだ水が静かに流れています。

御溝
蔵の横を流れる御溝

この水路は御溝(おみぞ)と呼ばれ、江戸時代に球磨川支流・万江川の水をお殿様の生活用水のために引いた水路です。
清冽な水が流れる御溝には、毎年6月には蛍が飛び交うそう。ゆるやかな流れと微かなせせらぎの音に、時を忘れてしまいそうになりました。

また人吉の地下には豊富な地下水があり、町の皆さんは飲用水としても使用しています。
この澄んだ地下水から深野酒造の美味しい焼酎が造られています。

レンガ造りの煙突

この御溝に面して立つレンガ造りの煙突。明治から昭和初期あたりに建てられた煙突は、現在使用されていませんが、その歴史の象徴として、蔵と御溝を見守るようにそびえ立っています。

木桶蒸留機

また蔵には資料館が併設されています。大きな仕込み木樽に、初めて目にする木桶蒸留機など昔ながらの道具たちが、蔵の歴史を伝えています。

そんな自然と歴史の中で良質な焼酎を造り続けている深野酒造。そのこだわりに注目したいと思います。

■技が光る甕造り

深野酒造の最大の特徴は、手造り甕仕込み、甕貯蔵。

現在は、2004年に新しく増設した蔵と、完全手造りにこだわる旧式の蔵と完全に分業する形態をとっています。
全体の約15%が完全手造りを行っており、甕を使用しての一次仕込み、貯蔵を行っています。

仕込み土甕

手造り蔵の中には、いくつもの大きな甕が埋まっています。こちらは一時仕込み用の土甕で、約150年前の江戸末期に造られたという大変貴重なもの。昔から蔵の財産として大切に扱われてるそうです。

土甕を地中に埋めるのは温度変化を一定に保つため。人吉は盆地なので、一日の寒暖の差が激しく温度管理が大変ですが、そのポイントとなるのが高さ。なんと、その土地の気候によって甕を埋める高さが違うそうです。長年の焼酎造りの経験から生み出されたベストな高さと言うことですね。

醪
黒麹醪

甕の中では、一時仕込みの醪がプクプクと音を立てています。醪から放たれる香りで、蔵の中はまるで吟醸香のような香りに包まれています。
醪はこの後、二次仕込み、蒸留を経て、甕の中で静かに貯蔵されます。

甕貯蔵
貯蔵庫に眠る甕

こちらの小さな甕は約30L入る国産の和甕。甕貯蔵の一番の特徴は、まろやかな味わい。甕には小さな気孔が無数にあり、焼酎がそこから呼吸をするためガスが早く抜けていき、熟成が進みます。その結果、まろやかな個性のある味わいを生み出すことができます。
この貯蔵庫に眠る焼酎も、貯蔵年数や麹の種類など様々ですが、最も古い年数は18年貯蔵。
商品によっても、何年貯蔵がベストな味わいを生むのかは異なるため、細かに味を見ながら商品化をしていきます。
この和甕は毎年33本ずつ貯蔵しているそうです。
丁寧な仕込みを終えた焼酎は、いつかの商品化の日を待ちわびながら、ここで静かに眠っているんですね。

深野酒造では、この他に樽貯蔵とタンク貯蔵を行っています。

樽貯蔵

■新しいことへの挑戦

今回見学をさせていただいた場面は、一般の方も見学可能です。
深野酒造では、球磨焼酎、米焼酎の良さを知っていただきたい、と人吉地区で一番最初に蔵見学の一般公開を実施しました。
焼酎をより身近に、と深野酒造では他にも様々な開かれた取組を行っています。

蔵見学 試飲会場
蔵見学 試飲会場

現在7代目となる深野社長にお話を伺いました。

米焼酎を広げるために取り組まれていることは?

食との提案です。食事に合わせて飲む焼酎は米が一番。料理との相性だけでなく、料理によって割り方も変えるような飲み方提案を積極的に行っています。
フランス料理と合わせた焼酎の提案なども挑戦しています。
しかし米焼酎だから、と言うわけではありません。麦も芋も、「焼酎」と言う文化の中で、色々な提案ができればと思います。

社長になられたばかり、ということですが、新たに挑戦していることなどありまか?

一番の心がけは、こだわりの甕造りを残しつつ、新しい何かを開発していくこと。

季節にあったもの、地域のものに特化した商品造りを行っています。大量生産できないため、こだわりの部分を強くしていきたいと思っています。農商工と連携して、地産を取り入れています。今後も地元の食材を使った焼酎造りの挑戦したいと思います。

「地元の食材を使用した」焼酎の目玉としてあるのが、こちらの焼酎「野菜ばなし」

野菜ばなし
野菜ばなし

原材料には、地元の野菜や穀物ががなんと30種類近く使われています。
コンセプトは「地産多消」。商品開発には深野社長が筆頭となり、役場に協力を仰ぎ、地元野菜を集めています。
「野菜ばなし」の仕込みは春野菜が出始めてから。野菜ソムリエおすすめの野菜を一年を通して集め、まとめて仕込むことで独特の風味を出します。

野菜ばなし仕込み模様
野菜ばなし仕込み模様

こちらは2次仕込みの様子。色とりどりに葉物なども見ることができます。
毎年原材料が異なるため、風味も毎年違います。できてからのお楽しみでもあり、様々な野菜の味を感じてもらえる焼酎になっています。

そして、深野社長が手掛けた商品の中で、面白い焼酎をもう一つご紹介。
5年貯蔵の米焼酎「幻の3ナンバー」

幻の3ナンバー
幻の3ナンバー

毎年12月に数量限定で発売しているこの焼酎。ラベルの「球磨33」は度数33度を表し、ナンバーは仕込んだ年となっています。5年貯蔵なので、最新のラベルは「20-11」。一番古いラベルは30年貯蔵となる「19-87」。深野社長が蔵に戻ってきた年だそうです。
「いつかはクラウン」というキャッチコピーもあったように、高級車と言えば3ナンバーのクラウン。「焼酎は労働者の酒」というイメージが強かった当時、「焼酎の価値を高めたい」という想いから、憧れの3ナンバー高級車=高級酒と言う意味を込め、この商品が造られました。

とてもコンセプトの面白い商品が多い深野酒造。もちろん面白いだけでなく、蔵の個性を生かしたもの、地域に根ざしたもの、それぞれに深野社長のこだわりが反映された商品になっています。

そして、地消の焼酎の一つ「誉の露 熊本県内限定酒」。その名の通り、熊本県内でしか飲めない焼酎です。
熊本にお越しの際は、ぜひお試しいただきたい逸品です。

誉の露 熊本限定
誉の露 熊本限定

さて、深野社長一番のおすすめは?

完全手造り甕仕込みにこだわった「誉の露 常圧蒸留カメ仕込 25度」

おすすめの飲み方は燗ザロック。
焼酎を直燗して、氷を入れたロックグラスに注いで飲む方法です。ロックだけだと、焼酎がしまってしまいますが、燗をすることで香りと甘みが立った状態になり、それを冷たく飲むことができます。

深野社長おすすめ

豊かな香りと風味が持ち味の焼酎ならではの楽しみ方ですね。

完全手造りから、個性溢れる商品まで、幅広いラインアップの深野酒造。どれも気分やお食事に合わせて自由に楽しめる、そんな自慢の焼酎ばかりです。

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これからも新しい目線で、焼酎文化の提案を続けていただきたいと思います。

最後に、深野酒造の皆様、お忙しい中、取材ご協力いただき、有難うございました。