第3回 本格焼酎&泡盛試飲フェスタin東京
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本格焼酎講演会
熊本県人吉市の球磨焼酎の蔵元、合資会社鳥飼酒造場より代表社員の鳥飼和信様による講演会が行われました。「焼酎のこれから」をテーマに、お集まりになった小売店様、料飲店様、業界関係者に向けて自社の蔵のこと、焼酎業界のことなど鳥飼様独特の切り口で講演して頂きました。
(※下記は講演会の要旨です)
講師:鳥飼和信氏(合資会社鳥飼酒造 代表社員) テーマ:焼酎のこれからについて
【講師略歴】 ・昭和24年 人吉市生まれ 現在56才
・昭和48年 合資会社鳥飼酒造場入社
・昭和51年 同代表として現在に至る
(写真)講師 鳥飼和信氏

焼酎のこれから
 近頃よく焼酎ブームは終わったなどと聞かされます。ところが直近のデータを見ても芋を主にして全体には相変わらず伸びているのです。ではなぜそのような話になるのか考えるとこの1〜2年の短い期間に都市部の新市場へあらゆる産地から多種多様な商品群が吹き出るように流入して、その賑わいが一段落したと言う事なのでしょう。 

 焼酎のこれからを考える為に、天才的現代数学者ピーターフランクルさんの著書にある東欧の教育的歴史観を当てはめてみました。それは歴史の変化は先づ技術革新が起き、次に経済的変化をもたらし、次に政治的変化、文化的変化へと連動すると言ってます。鉄や内燃機関等のマクロな人類史とミクロな焼酎の短い期間とを比べる事には無理があるかも知れませんが、未来を想像する為に過去を振り返ってみる事とします。
(写真)講演会の様子 焼酎の最初のブームは1973年を起点とするオイルショックの最中に訪れました。当時焼酎業界の総量は50万石、9万klだったと記憶しています。シヨックという位ですから大きな経済的変化が世界的規模で起こりました。それまで直線的に進んできた日本経済は重厚長大型の産業構造から大きく舵を切ります。そして工業を中心として都市部へあまりに一極集中化が過ぎた事への反省が起こり、ついては地方文化への再評価が始まったのです。スモールイズビューティフル、ディスカバージャパン、Uターン等の流行語が生まれたのもその頃でした。焼酎もそのような流れに沿った形で極めてローカルな酒への評価が始まり、都市圏へと拡がりました。量的には今と比べる程もないのですがこれが経済的変化に次ぐ文化的変化です。
 そこで焼酎の技術に一大変革が起こります。イオン交換濾過法と減圧蒸留法です。それまでとは違い、クセの無いタイプの焼酎により都市圏の消費の広がりは加速化しました。経済的変化です。おそらく50万石、9万klを起点とすると3倍程となった頃でしょうか。焼酎市場の広がりと消費の急増は国内はもとより、国際的な政治的問題となりました。当時、日英の貿易不均衡を問題としたサッチャー首相は、同じ蒸留酒であるスコッチウィスキーが焼酎のように消費が伸びない理由は日本の関税や酒税法等の制度上の問題があるとして、制度変更をしないのならガット提訴するとまで主張したのです。確かにそれ以前にも国内では酒税法について様々な論議が取り沙汰されておりましたが、ついに日本の酒税法は平成元年(1988年)規制緩和へ向けて大きく変化する事となります。これが政治的変化と言えます。
(写真)講演会の様子 結果最も大きな影響は流通に起きていて、その現象は皆様の既にご存知の通りです。卸業界のダイナミックな再編成や多様な業態の小売業の出現や大型店の出現等です。そして焼酎については酒税がこの間、6倍近い増税となりました。当時、焼酎業界の誰もが存続を危ぶんだ事は、決して古い記憶ではありません。
 また、税制の変化を受けて酒の種類間に起きた出来事は、まずウィスキー・ブランデー等の価格が平行輸入物も加えて大幅に下がりブームとなりました。次に吟醸酒ブーム、ワインブーム、そして現在の焼酎ブームへと至っています。
 中でも吟醸酒ブームと焼酎ブームにはある共通点があると考えられます。それはいずれも蔵元が地方にありかつ小規模である事です。ブーム以前迄は広告宣伝費や営業費を捻出できない小さな蔵のブランドが、ナショナルブランドで占められていた都市圏のマーケットで認知を獲得することは、それ以前はほとんどありませんでした。その出来事を可能とした理由は、以下の事項抜きには考えられないと思います。

  1. 規制緩和の中で多様化する流通の業態間の競争による軋轢が激しくなる中でお店は従来のナショナルブランドのみでは生き残れない事に気付き、個性ある商品や蔵元を発掘し品揃えする事によりお店の顔、個性を表現し差別化を創造しようとした事。
  2. 様々なメディア、マガジンやインターネット等の情報網の発展により消費者へ伝わる情報の質量やスピードが格段に上昇した事。
  3. 宅配便等の小口でローコストな全国的物流の発達です。

そして現在、30年前では考えられなかった都市部の飲食店や様々な生活の場所で老若男女を問わず焼酎の文化が花開いていることが見受けられるようになりました。
文化的変化です。
以上冒頭の歴史観に倣ってお伝え致しましたが次に来るものは何なのでしょう。
皆様も順を追って想像されたらいかがでしょうか。

焼酎という蒸留酒について
(写真)講演会の様子 蒸留技術はご存知のように古代メソポタミアにて発明され世界へ伝播しました。光がプリズムを通り彩やかな多様な色を発つように、各地の風土文化により多様な蒸留酒が生まれました。醸造酒を基礎に蒸留酒が出現したのです。蒸留酒は醸造された醪(モロミ)無しには造れないのです。従って例えばビールとウィスキー、ワインとブランデー清酒と米焼酎と言った具合に醸造と蒸留の関係は兄弟の間柄にあると言えます。
 絞って出来る醸造酒と蒸留して出来る蒸留酒の違いを言えば、蒸留酒の香味は全て蒸留物によってのみ生まれる訳ですから、発酵した醪(モロミ)に砂糖や塩を入れ蒸留しても酒には何ら変化を与えません。そこが違いです。蒸留酒の成分は化学成分表によって表されています。どの成分をとってもppm(百万分の一)単位のごく微量なものです。この微量にして多種な成分の総体が蒸留酒の香味の源なのですから誠に人間の鼻や舌はすごいと言う事となります。

きき酒について(ティスティング)
 さて、そのようにして生まれた焼酎がお客様の手元に届いてお客様に感動や満足が生まれる為には何が必要なのでしょう。お客様に一番身近に接されている皆様の販売という行為無しには有り得ない訳ですが、その行為は次の様に考えられないでしょうか。お店の方がお客様の好みや要望を適切に見抜き、また一方で数ある商品の特性を見分け人と商品を結びつける行為ではないのかと。すると片方の商品の特性を掴む為には目ききになる他にありません。
 ところが焼酎がブームになりいろんな方々がマスコミに登場して論評されますが、おやっと思う事も多いのです。考えたところきき酒にも目的があり、場合によって目的は異なる事に気付いたのです。
 先づメーカーにとっては商品開発や工程管理の為であり、品評会の審査員にとっては何かのある尺度で優劣をつける為であり、評論家にしてみれば話したり書いたりする為のものなのです。ところがこの場合のきき酒の方法は飲んでしまう訳にはいきません。酔ってしまいますから。数百点、数十点をきき酒するとなると実は少し酔います。
 しかしながらお客様は実際には飲んで酔う訳ですから、先のやり方ではきき酒半分という事になります。のどごし、酔い心地、酔い覚め迄は解らないのです。お客様との共感を得る為のきき酒はそういう意味では難しいものと言えます。

そこで以下の誰にでも判るきき酒法を提案します。

  1. 自己体調のチェック 満腹、空腹、二日酔いではダメです。
  2. 目の前にある酒と記憶を比較しない。必ず現物同士で。
  3. .製法、原料等のカテゴリーを定めて。同じ餡だからと言って羊羹と饅頭を比べる訳にはいかないのです。
  4. アルコール度数を15%〜12.5%。自分の感覚に合った濃度で統一する。
  5. 体温に近い温度で。
  6. 一通りきき酒したら最後は少し飲んで全体の評価を行う。
  7. 決して多くの点数を一度にしない。20点も30点もでは雑になります。
  8. 種類別に座標点となる酒(マザー)を持つ事。−これはかなりのプロです−
  9. 酒に対してこれ迄の一切の固定観念を排除して、いつも初めましての気持ちで相対する事。

自由な発想で
(写真)講演会の様子 ウィスキーやワインの世界には流通業(ネゴシアン)は自分のブランドを造ります。
そこには製造業や販売業の区別は無いのです。なぜなら双方ともお客様の満足を目指している訳ですから。
日本でも小売店はつい60年位前まで瓶物とは別に目ききにかなった酒を桶買いし、ブレンドし、手印の徳利で売っていたのです。当然、きき酒が店の浮沈を決めました。
自分のきき酒でイメージが定まったら、小売業の皆様方も小売業の立場にとどまらずメーカーの立場に立たれたら、面白いいろんな事が出来るのではないでしょうか。

最後に
  私共 合資会社鳥飼酒造場は150ヘクタールの森林と水源を持つ渓流が4km流れる地に生産排水ゼロの蒸留所を5年の歳月をかけ完成致しました。これからどう自然と共存しながら地域文化の創造をするかを課題としています。

 焼酎ブームのこれからに一つ懸念があるとすれば、この間メーカーの生産設備の増設ラッシュが続いており、直接に需給のアンバランスに繋がらないかという事です。
生産のキャパシティについてメーカーは、自分の事は解っていても、業界全体の事は知り得ません。都市圏で皆様のお陰でようやく育った焼酎です。
どうか流通業の皆様の声を製造業界の流通政策に反映して頂いて共に栄えて欲しいと願っています。


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