2015年6月、大分県竹田市、萱島酒類に行って参りました。
萱島酒類株式会社 大分県竹田市大字竹田町398
九州の小京都とも呼ばれる竹田の町は、滝廉太郎の「荒城の月」の舞台となった岡城の下、城下町が広がっています。九州一の名水とも称される竹田湧水群をはじめ、市内では澄んだ水が豊富に湧いており、また町の周囲を川に囲まれています。
萱島酒類は、そんな水が豊かな印象を受ける竹田の町の中ごろに位置しています。
萱島酒類の創業は平成21年と、比較的新しい蔵元です。その昔、竹田の町にはいくつもの蔵元がありましたが、時代とともに姿を消して行きました。
いよいよ最後の蔵が造りを辞めるとになり、清酒「西の関」で有名な国東市の萱島酒造がその運営を引き継ぐこととなりました。
そして現在、新たに萱島酒類として、萱島酒造の屋号「福寿屋」の看板を背負い、「豊後の清明」を主銘柄とし麦焼酎を造っています。
今回は、焼酎造りに挑戦されている宮本専務にお話しを伺うことができました。
まだまだ歴史のない焼酎蔵です。しかし徐々に地元の方に認知されてきたと感じています。地域から始まり、ゆっくりでも外へ広がっていけばと思います。
まずは多くの方に手にとっていただき、その中で「清明」の名と味を知っていたいただきたいと思います。
昔に比べれば機械の性能も格段に良くなり、きれいに早くできるようになってきました。確かに、設計図と機械があれば誰にでも造れるかもしれませんが、そこに思い入れがなければ味は出てきません。
自然界からつくるものに簡単な設計図はありません。ものづくりは簡単でも奥が深い。答えの出ない仕事です。
「清明」という商品名は、その澄んだ味わいを表わしていると伺いました。
その通り二十四節季の一つ「天地が澄み、明るく躍動を始める」という意味の時候である清明という名をつけました。竹田の良質な水を使用したこの焼酎は、非常に澄んだ味わいをしています。
加えて、当時、経済の落ち込みなどで日本全体が元気がありませんでした。そこで、よし、元気を出して頑張ろう!という強い想いを込めて、社長が「清明」と名づけました。
大分では珍しい米麹を使用した麦焼酎ですが、こだわりや魅力は何ですか?
萱島酒造が清酒造りの蔵元であり、米麹に対する思い入れがあるからです。
麦麹が主流の大分では最初不安もありましたが、新しいく焼酎つくりを始めるからこそ、大分の大半が麦麹仕込みに対して清明は米麹仕込みで、新しい風をふかせる必要があると思いました。
米麹の特徴は米由来の甘みが出ることです。初めのうちは、「飲みやすい」という評価をいただくことで喜んでいました。しかし、果たしてそれはイコール「美味しい」という評価なのか?という疑問が出てくるようになりました。 無難な言葉で、喜んではいけないと、日々研鑽しています。
「豊後の清明 常圧麦」はアルコール度数が30度と、こちらも大分の市場とは少し異なるように感じましたが?
米麹を使用することで、由来の甘みと旨みが出てきます。麦・麦麹はもちろん「麦」の味ですが、米の甘みや旨みで麦由来の味わいが柔らかくなります。
原材料の旨みを引き出す常圧蒸留をすることで、旨み広がりを感じとってもらえる焼酎と思います。
そこで、主銘柄の「豊後の清明 25度」と「豊後の清明 常圧麦 30度」を比較試飲させていただきました。
まずは「豊後の清明」から
口の中に広がる甘みが印象的です。麦焼酎らしいさっぱりした味わいの中に、米の甘みが十分に加わり、お互いの良さを引き立てています。
次に「豊後の清明 常圧麦」
驚くほどに、香りから全く違います。口に含む前にふわっと香る、常圧ならではの香ばしさが非常に印象的で、その味わいもなるほどパンチがあります。非常に麦の味わいが引き出されています。
その後、蔵の中を見学させていただきました。
元々あった蔵元の土地を使用しているため、古くからある城下町の中では拡張することができず、試行錯誤のうち、なんとか2階建という構造で焼酎造りを行っているそうです。
1万リッターが入る貯蔵タンクが蔵いっぱいに設置されています。
2階にあがると、一気に気温と湿度が上がります。蒸留は終っていましたが、それでも蒸留器の熱気が蔵中にこもっています。
ここにあるのは、萱島酒類の特徴の一つでもある醪(もろみ)の入ったタンク。
味、旨みを引き出すために、2次もろみの品温をゆっくり下げて行き、通常よりも時間を長く設けているそうです。
蔵の見学で一番印象的だったのは、その清潔さ。
蔵の新しさはもちろん、清掃が隅々まで行き届いていました。
宮本専務曰く
そこが清酒蔵、萱島酒造の影響を色濃く受けている点です。清酒造りは「洗いに始まり洗いに終る」と言われるほど、つくりを始める数ヶ月も前から道具の清掃の準備に入ります。
造りの精神論ですね。道具を洗うときは、消毒液などの薬品は極力使わず、熱湯を使用します。
見学中も冗談を交えながらの、とてもユニークな宮本専務。創業当初の苦労話も聞かせていただきました。
一番初めの造りの際、一次もろみで中々温度が上がらなかったそうです。周りから温めようとしますが、上がり過ぎても駄目。微細な温度調節のため、眠ることなく2日間もろみに付きっきりだったそうです。
通常、もろみと言うのはある一定期間の静寂期を置くと、自然と温度が上がり、ある程度ちょうど良い温度になるそうです。
もちろん、あらかじめ知ってはいたものの、初めてということで、不安で不安で堪らず、もろみの傍から離れることができなかったそうです。
今となっては、とても心に残る出来事だったと、笑いながらお話してくださいました。
焼酎の造り、蔵の清掃はもちろん、細かなことまで十分に気を配ってこそ、良いものができる。
はじめに「思い入れが味を産む」というお話しを伺いましたが、まさに思いに溢れた焼酎造りをされていると感じました。
蔵の歴史は新しいかもしれませんが、竹田の町に見守られながら、日々精進の精神で焼酎を造り続ける萱島酒類。
これからも時間とともに、良い焼酎、良い歴史を築き上げていただきたいと思います。